これを危ないところで救助したのが兄キの木村荘太です。一体家では他の兄弟(荘九、荘十、荘十一、荘十二等々)の手前もあるから、商業に従事する以外は、中学教育以上の学資は誰にも出さぬ、といふのを、荘太――これは当時総いろはの若旦那です――は、ぼくの為めに一方、小山内さんを通じて、家との交渉決裂する場合は岡田三郎助先生のところへぼくを書生に出す(?)作戦を立てた上で、家事総監督の長兄に向い、荘八を絵かきにしてやつてくれと談判したものです。
 申す迄もないが、ぼくは文学をやるか、あるひは絵かきになるか、どつちみち芸術[#「芸術」に傍点]に従事したいと考へてゐたのです。
 ところがこちらが二段がまへの強腰に当ると、家では、存外素直にぼくの絵かき志願を許しました。長兄はぼくを愛してゐたと思ひます。――これに反して同じ父方の「風流」の血に憑かれた、末弟の、荘十、荘十二等は、苦労多かつたと思ふのです。――長兄はぼくに対して、商業に従ふべく高等商業を受けさせようと思つてゐた素志に準じて、絵かきになるならば、美術学校へ入らなければならぬといふことになりました。ぼくは勇躍してたしか十九の春から、早速昼間は赤
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