、大ドブが元柳町を走つて両国橋の袂の義太夫の新柳亭のところまでずつと抜けてゐます。ある時ぼくがしよざいなさに中の間の窓からぼんやりこのドブ板を見てゐますと、雨がパラパラと来て丁度通りかゝつた、臼を車にのせたカンカチ団子屋が、暫時軒下に雨やどりをしてゐたけれども、なかなかやまないのを見て、荷物を置いたなり、すたすた尻つぱしよりで何処かへ駈けて行きました。得たりと、ぼくはすぐ外へ出て、その置きざりにしたカンカチ団子の臼の中へ、見るとすぐそこに犬の糞があつたからこれを入れて、杵でクタクタとついて、そのまゝ元の窓へ逃げ帰り、どうなることか、そつと覗いてゐました。
残念ながらその時いつまで経つても雨がやまず、団子屋も帰つて来ないので、そのうち日もくれるし、――いつ団子屋が臼の車を曳いて帰つたかは見届けませんでしたが、明くる日になると、それがいつもの通り、カンカラカンカラ杵を鳴らしてやつて来ました、ぼくはすまして窓から団子屋が車を曳いて横町を通るのを見るといふと、杵の先きと、臼の中とが、白々しく削つてあるのです。わるい事をしたなアと後悔した心持を――その白々しく削られた木の色と共に未だに忘れませ
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