じろぎをして、三畳の方へ襖越しに)恵ちやん。
弟 ――(答無し。紙の音)
沢子 恵ちやん。――恵ちやん。まだお仕事は済まないの?(弱々しく)そんなに、あんまり詰めてすると、また、眼が痛み出してよ。――ねえ。少し休んだらどう?
弟 ――(答無し。紙の音)
沢子 ――まだ姉さんは帰つて来ないの?
弟 ――(答無し。紙の音)
沢子 (返事をされない事には慣れてゐるらしく)――また秋ちやん、鑑札を取上げるとか何とか言つて、おどかされてゐるんだわ。――ほんとに、秋ちやんはいつも苦労の絶間がないわねえ。――苦労を一人でしよつてゐるんだわ。――ほんとに、――。
弟 ――(答無し。紙の音)
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間
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沢子 ねえ、恵ちやん。あんたは、いゝ姉さんを持つて仕合せだわねえ。私なんぞ、あるにはあるけど――(間)ねえ、もうお師匠さんとこへ出かける時間ぢやないの?
弟 ――(答無し)
沢子 早く切り上げて行かないと、また姉さんに叱られてよ。よ、恵ちやん。私はね――(続けようとするが奥の梯子段を昇つて来る足音に、言葉を切る)
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奥から女将の声
[#ここ
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