役さんでやすかい。いえね、この婆さまの事に就てでやすね、あんまりキモが煮えるもんで――
助役 ああ又来てるな。(農夫に)いやあ、わしらもキモは煮えているんだ。問題はこの人だけじゃないからね。この村だけでも、ほかに、まだ引上げて来ないのが六、七人あるんだから。だから、世話部や引揚援護庁や、その他、司令部や大使館だのへ、それぞれ嘆願書や調査願など、出来るだけの手は尽してある。あっても、しかし、どうにもこれが相手のある仕事でなあ、相手がお前、ウンともスンとも返事をくれねえだから、当方としては、これ以上どうにも出来ないんだ。(おそめに)だからなあ、あんたも、そうヤキモキしてだな、此処へそうやって来てくれても、どうにも出来ねえだから、つらかろうが、もうチットしんぼうして、内で待っていてくだせえ。な! とにかく、息子さん生きているだけはチャンと生きているんだから、そこん所は安心してだ。なんしろ、へえ、シベリヤと此処じゃ、いくらヤキモキしても喧嘩にならないんだから、もっと落ちついてだなあ――
そめ よっぽど、その、シベリヤつうのは、遠いんでしょうか?
助役 そりゃ遠いなあ。何百、いや何千里かな――
前へ
次へ
全33ページ中20ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング