房代に向ってビュウッとバンドを振る)
房代 あっ! (辛うじて打撃をかわし、テーブルを小だてに取って、室の隅に飛びさがる)
省三 出て行け! 出て行かないと殺すぞ!
房代 殺せるものなら殺してごらん! しと、痛いだろうと思って、わざわざやって来てタオルで冷してやろうとすると、だしぬけに、なに乱暴するのよッ!
省三 なぜ触るんだ俺に! 放っといてくれ、お前みたいなバイタが――出て行け!
房代 出て行くとも! あたしのためにケガをさして悪かったと思うから、こうしてなにしてんのに――動物!
省三 あたしの為にケガをした? ヘッ、あん時、お前のあとから飛び降りた自分が、腹が立つんだ! ざまあ見ろ、だからこんなケガあしたんだ! 俺が俺に罰を喰わしてやったんだ。お前なんか死のうが生きようが腐ろうが、知った事か! のぼせるなよ、お前なんかのために誰が飛びおりたりするもんか!
房代 ヘッ、のぼせているのは誰だ? 戦争が始まったのが、あたしのセイなの? あんたが出征したのが、あたしのセイなの? 復員して見たら、あんたの恋人が空襲にやられて死んでいたのが、あたしのセイなの?
省三 ちきしょう、だまれ! だ
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