消えてしまう。その代りに、恐怖から今にも泣き出しそうな顔になっている。目まいが起きるほどの急変である)
省三 うッ? (びっくりして、なぐりかかるのを忘れて、それを見ていたが、やがて振返って戸口を見る。――戸口の奥の闇を背に、須永がションボリ立っている。バツの悪そうなモジモジした態度。それを見ているうちに、省三からも兇暴な調子が消えている)
須永 やあ。
省三 君か? ……はいりたまい。
須永 話したいと君が言ってたもんで――(言いながら遠慮っぽく入って来る。その間に、猫が逃げ出すようにす早く房代が、須永のわきを大きく円を描いて足早やに戸口の方へ出て行き、消える)……あのう、キズはどう?
省三 ……なに、大した事は無い。(キョトリとして、まるでキツネでも落ちたようだ。そして見失った自分の思考のつながりの絲を相手の顔の中から捜し出すように須永の顔ばかり見ている)……それで?
須永 モモコさんは、どこへ行ったのだろう?
省三 ……(不意に絲をつかんで)そうだ、君がその男をやらなければならなかったのは、わかる。しかし君の、その恋人はなぜ自分だけ自殺したんだ? 全体、その人と君とは、なぜに一緒
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