な気持になる事は無いのか?
省三 ハハ、アッハハ、ヘヘ!
舟木 その矛盾に気が附いていればいいんだ、自分が、気が附いていれば、分裂じゃない。病気じゃない。
省三 ヘヘ!
舟木 気ちがいは笑うよ。
省三 ハハ、ヒヒ、アッハハ……(その笑い声の尾の所でヒー、ウーと泣き出している)
織子 省三さん、もうあなた――(省三の肩に手をかける)
舟木 (その弟の姿をジッと見ていてから)……お前の苦しいのは、多少わかる。……だから俺あ言ってるんだ。もっと落ちついてくれ。三階の先生も、こないだ言ってたろう、第三の道が無いわけではない。俺は医者で深いことはわからんが、第一の道でも第二の道でもない、だな。それを見つけるには先ず落ちつく事だ。お前はちっとあの先生とでも話して見ることだ。
省三 (織子の手を不愉快そうに振り切って立ちあがる。涙の流れた顔をゆがめて再び笑う)ヘヘ! おかしいですよ! 矛盾は知ってるんだ。血を売ったって、しかし、心臓を売ったって、しかし、おれたちは叩き倒さなければならん奴らを叩き倒して見せる! 見ていろ! どうせ戦争で捨てた命だ。理屈じゃ無い、憎くて憎くて、俺あ憎くてたまらないんだ! ヘッ、兄さんみたいなニヒリストに何がわかるか!
舟木 ニヒリストじゃないよ俺は。俺はこれでも医学という科学を信じている。……お前はもっと自分に素直にならなきゃ、いかんよ。無理が多過ぎる。たとえば――そうだ、お前は若宮の房代さんを、まるでダカツのように嫌ってるが、なぜそんなに嫌うんだ?
省三 嫌いだから嫌いなんですよ! 腐れパンパン! ペッ! ゲェ!
舟木 ホントにそうかね?
省三 ホントですよ。なぜそんな事言うんです? あんな女は戦争が生んだ悪の中でも一番下劣なウジのようなもので、あれにくらべると食って行くだけのために有楽町などに立っている連中は、まだ清けつだ!
舟木 いや、それならそれでいいが、僕には必らずしもそう思えないからだ。青年は青年らしい恋愛の一つもする事だ。そうなったら、そうなった自分をアッサリ認める事だ。房代さんの事には限らない。一事が万事で、自分に対して嘘ばかりついていると――
省三 ヘッ! 兄さんだって、じゃ自分に嘘をついていないと言えるんですかね? なんじゃないですか、兄さんはどうしてこんな家にいつまでもトグロ巻いている? 病院にゃチャント宿舎があるのに、わざわざ
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