間だって、むき出しの真実には耐えきれるもんじゃない。
若宮 ヘヘ、四十年、勝負一本に身体を張り通して来た若宮だ。丁と出ても半と出てもビクともするこっちゃねえ!
舟木 よした方がいい。悪い事あ言わない。
若宮 さあさ、ズバッと言ってくれ!
舟木 むきだしの真実をどんな人間でも真正面から見てはいけない。
若宮 言えッ! 君も悪党じゃねえか! (つかれたように舟木の眼を睨みつけている)
舟木 いや私は医者だ。……(言いながら、若宮の眼を冷然と見返していたが、フッと薄く笑う)
若宮 ケイベツするぞっ!
舟木 聞かない方がいいんだがなあ。……(又ニヤリと笑う)
若宮 そ、そ、それじゃ、やっぱり、もう、いけないのか?
織子 ……(それまで二人を見守りながら、ふるえていたのが、不意に舟木にかじり附いて)な、なんにも言わないで下さい! あなた、そんな、怖い! 言わないで!
若宮 ホントの事を言えいッ!
舟木 ふ! 私の診察に依ると――
織子 言わないで下さいッ!
若宮 すると、すると、どう手当をしたらいいんだ?
舟木 病気は永い。それに、君は気ばかり強くて、これまでチャンとした医者の診察を受けないで来ている。今さら手当てをすると言っても。……大事にしていれば、まだ半年、いや三月ぐらいは――
若宮 み? ……
舟木 アッタッケが来れば、今すぐにでも、転機を取る。……昂奮を避けることだ。……言えと、無理に言えと言うから言うまでだ。それ以上は私にはわからない。医学が私にわからせてくれただけを言うまでだ。あんたには、もう久しく手足にムクミが来ている。それをこれまで君が相手にした変な医者は腎臓のためで片づけて来た。いや、医者なら、いくら変な医者でもそれ位わからない筈はないから、心臓のことは言っても無駄と知って言わなかったか。それから、手の爪を見たまい。ほとんど黒い位のチヤノーゼが来ている。強度のアリトミイ。
若宮 …………(呆然と、言われるままに両手の指先を眼の前に持って来て爪を見る)
舟木 来れば狭心症で来るから、その時にはベクレムング――胸が苦しくなって、油汗が出て来る。
若宮 …………(立ったまま胸をかきむしりはじめる)
舟木 いやいや、今そうなると言うんじゃない。ただ医者として――いや、僕の診断も絶対に正しいかどうかはわからない。ただ、とにかく、言えと言うから、正直に自分の診た所を言
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