言うの。ズーッと殺そうと思っていたのだから、確かに自分が殺したのだ。おれたちを圧迫し、植民地化しようとする奴等を全部殺せ。殺さなければ奴等がおれたちを、しめ殺す。全体、どんなわけが有って、お前たちは原子爆弾を最初に日本に落したのだ? そんな事をしなくても、あの頃すでに日本は戦争を続ける力を失ってしまっていて、捨てて置いても間もなく降伏するばかりになっていた、のに、どうして、どんな理由であんな悪魔の爆弾を広島・長崎に落したのだ! そう言ってわめいて、そして、その、そいつらと一緒に寝ているのが貴様だ! その恥知らずがお前だ! そう言って私の首をしめにかかるの!
私 ……須永が、あなたを?
房代 え、須永さん――?
私 ですから――
房代 いえ、省三さんです。
私 ……ああ。
織子 でも、省三があなたに対して、そんな失礼な――どうしたんでしょう?
房代 まるでもう、いつもと違うんです。気が変になったんじゃないかしら?
私 須永を見ているうちに、自分の内に眠っていたものが、省三君の中で眼をさました。……省三君だけではない、みんながそうだ。
房代 どうしたんでしょうホントに? なんか、とんでもない、恐ろしい事が起きるのじゃないかしら? 怖いわ私! (織子に抱きつく)モモちゃん、どこかしら? あの子だけだわ、いつもと変らないのは。
織子 (私に)どうすればいいんですの、私たち? 言って下さい。どうすれば――
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(そこへ舟木がノッソリ入って来る。手に注射器の入ったケースと幾種類もの注射薬の入った小箱をわしづかみにして持っている。態度は落着いているが眼だけは異様に光っている)
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私 ああ、舟木さん。
舟木 ……(ジロリと三人を見まわして)須永をどうします?
私 ……しかたがない、警察にそう言ってやらなくちゃなるまいと――
舟木 そう。今頃はもうあんたの事がわかって、この家に対して手配が附いているかも知れない。とにかく、早くなんとか処置しなければ、この家の中でロクな事は起きない。柳子さんの様子など、少しおかしい。
私 おかしいと言うと?
舟木 あんたも気が附いているだろう、かねてあの人にはプシコパチヤ・セクシュリアスが有る。大きなショックがあると、変な分裂が起きて、それが元へ戻らなくなる事があり得る。少し鎮静させてやろうと思って、これを―
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