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左手には靴とフロシキ包みを下げ、右手に花束を高く差し上げる。
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お辻 (坐つてゐる)……どうしてくれるんだよ? 皆で寄つてたかつて私に恥ぢを掻かさうつて言ふんだな? よし、なら、死んでやる! 死んでやるとも!(刀をひねくり廻す)
彦六 ……死んで見ろ。昔の縁だ、見届けてやる。死んで見ろ。……おい、どうした?
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お辻瞬間キヨトンとするが、不意に刀を放り出して畳に突伏してヒーヒー声を出して泣く。彦一が刀を拾ひ鞘に納めて持つ。
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彦六 どうだ、死ぬより金の方がいいだらう。三百円ある筈だ。まあ、達者で暮せよ。
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お辻、金を受取り、夢中で勘定し始める。ミルを先頭に、父子三人、扉口の方へ歩いて行く。ミルは「糞でも喰へつ! こんな家!」。彦六は立止つて、お辻や、部屋の中を見廻してゐたが、大声にカラカラ笑ふ。
あたりはもう朝である。
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[#地付き]――幕――
底本:「三好十郎の仕事 第一巻」學藝書林
1968(昭和43)年7月1日第1刷発行
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