まま、人気が無くなつている。思ふにお神さんのいはゆる「極道」が通つてしまつたのであらう。
 十軒ばかりの店がスツカリ空家になつてしまつている。営業をしているのかどうかは知れないが、とにかく元のままで店を開けているのは、角の酒場と、その二階の旭亭撞球場の二軒だけだ。
 あつけに取られると言ふのは此の事だ。盛り場の裏通りの、木造建の此の一廓が、急にヒツソリとしてしまつたのは、寂しいと言ふよりも、いつそ異様な位に感じられる。
 それも昼の間や宵の口は、附近が人々や騒音でゴツタ返しているから、まだよいが、夜更けになると、シンとするし、まるで廃墟のやうに、やりきれない光景になつてしまふ。
 ところが今夜は、その二階の旭亭がひどく賑やかだ。
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[#3字下げ]第一幕 ビリヤード旭亭内[#「第一幕 ビリヤード旭亭内」は中見出し]


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場内一杯に音楽、――アコーデオンに依る急テンポのダンス曲。それに拍子を合せてタタ、タタツ、タツと床を叩くタツプの響。やがて男声テノールの唄。

開幕。
ガランとさびれ果てたビリヤード室。周囲には汚れた椅子、長椅子、ゲーム
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