あ、まあ、そんなもんかなあ。
彦六 さうか三多摩にや今でもそんなのがゐるのか。……しかしあの辺は、近頃、朝鮮の人間が多いさうぢやないか?
彦一 多いよ、だが大体が同じやうに働らいてゐりや、鮮人も内地人もあつたもんぢや無え、現に、大阪の玉造辺でゴロ/\してゐた俺をしよぴくやうにして此方へ連れて来て二年近く、附きに附いて俺の性根を叩き直してくれた男が鮮人だ。こいつは偉い男だよ。
彦六 へえ、そんな事があつたのか?
彦一 二人で東海道を歩いて上つて来る途中、ロクに飯が食えねえもんだから、俺がへたばる――
ミル まあ、東海道を歩いて?
彦一 すると其奴が俺をおぶつて呉れるんだ。まるで仏さま見てえな男だ。俺あ彼奴の背中で何度泣いたか知れない。そん時のおかげで俺あ地道に働ける人間になつたんだよ。
彦六 ふーん、……さうか……
彦一 どうだ、とつつあん、ここを引きはらつて、おれ達のとこへ一緒に来ちや。こいだけトコトン迄やり通しや、もういいぢやないか、第一無駄だ。
彦六 なに? 無駄だ? おれのしてゐる事が何で無駄だ?
彦一 だつて、外の連中は父つあんだけほつぽり出して行つちまつたぢやないか? かうし
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