すがね、此の建物の持主の松田と言ふ人に頼まれて、十軒あまりの店屋を片つぱしから追立てちやつてね、そりやみんな泣いてゐましたよ。向う角の炭屋のお神さんは、白木からあんまりむごい追立てを食つたために、気が変になつちやつたし……あいつのためにどれだけの人が泣かされてるか判りませんよ。ところが白木の奴、そんなむごい真似をしておきながら、うまいこと裏をくぐつてゐるんだからね。何にも判らない私達だつて、癪にも障るだらうぢや無えかね! さうだらう、お客さん?
客二 さうさなあ……もう一杯呉れよ。アハハ、金は有るよ。
アサ (酒を注いで)さうですとも! おらが若し神様だつたら、あんな奴等はみんな叩き殺してドブん中へ投込んでやる!
客二 此処のオヤヂも叩き殺すのか?
アサ へ、旦那を? 旦那は、さうさ……さうだなあ、あれは、旦那は今迷ひ込んでんだからね……根はさう悪い人ぢや無えですよ。
客二 ハハハハ。
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往来の方から四十位と三十四五の二人の男が出て来て眼くばせを交して、店のドアへ寄つて来る。若い方はダブルの背広、年上の方は和服の着流し、――そこへ、不意にコールテン服の男がスツと近
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