が損さ、内の旦那なぞがそれですよ。はじめに、この建物中、全部で十三軒、これこれの事を先方でしなければ立退くまいと申合せをした際に、どうか代表者になつて掛合ひをやつて下さいと一言言はれたので、好い気持になつちやつて、わざ/\寝ちまつたりして頑張つてゐるんだからね。かんじんの頼んだ方ぢや、とうの昔に金を掴んで立退いちまつたのに! いい恥さらしだ!
修 だけど僕には此処の小父さんの気持は解るなあ。
お辻 なあに、意地になつてるんですよ。なんとか言やあ、むかしあばれてゐた時分の気になつてさ。まるきり、三多摩自由党の幽霊と言ふとこさ。
修 僕にはさうは思へないなあ、早い話が、これだけにやつてゐた店を叩き出されて、あと直ぐ、どうして食べて行けるんです? ミルちやんだつて、まだいくらも取つちやいないし――
お辻 そんな事まで私が知るもんですか……。(話しの間にジリ/\修の方に寄つて居たのが、フイと畳敷きの方へ三四歩行き、カーテンをジツと見る)……おやすみだ、フン、(低い声)……ねえ、修さん。
修 な、なんです?(相手の調子が急に違うので、びつくりしてゐる)
お辻 あんた、ミルの事、ホントに好きなの?
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