タラメに開いて、ブルブル顫へるような声で朗読)いつしかと待つ吾が宿に、百枝《もゝえ》刺し生ふる橘、玉に貫《ぬ》く五月《さつき》を近み、あへぬがに花さきにけり、毎朝《あさにけ》に出で見る毎に、気緒《いきのを》に吾が思《も》ふ妹に、まそ鏡《かゞみ》清き月夜に、たゞ一目見せむまでには、……美緒! おい! いゝか! 聞いてるか? わかるか?
美緒 ……(朦朧とした状態のまゝ、かすかにうなづく)
五郎 (殆んど叫ぶやうな声になつてゐる)眠るな! 眠つちやいかん! 馬鹿! 聞くんだ! 大伴|家持《やかもち》だ。畜生つ! たゞ一目見せむまでには、散りこすな努《ゆめ》と言ひつゝ、幾許《こゝだく》も吾《あ》が守《も》るものを、慨《うたて》きや醜《しこ》ほとゝぎす、暁《あかつき》の心悲《うらかな》しきに、追へど追へど尚ほし来《き》鳴きて、徒《いたづら》に地に散らせれば、術《すべ》をなみ攀《よ》ぢて手折《たを》りて、見ませ吾姉子《あぎもこ》。反歌。……美緒! 畜生! 美緒!
美緒 ……(昏睡と覚醒の間を往つたり来たりしてゐるらしい)
五郎 (脈を見てゐた手で美緒の頬を叩くやうな事をしながら、緊張しきつた顔で
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