よ。……(と努めて美緒の考へを他へ転じやうとして)ところで赤井は、もう行つたかな?……さうだ、こないだ赤井が来た日の夜からお前熱を出したな?……あれ、どう言ふんだい? 病気はチツトも変つて来ないのに、なんで、あんな出しぬけに熱を出す? え?……第一、なんであんなにイライラしたの? あれで熱が出たんだよ。どうして、あんなにイライラしたい?
美緒 ……だつて……散歩に行けと言ふのに……あなた……行かないから……。
五郎 だつてお前、それだけの為に、あんなにジレる事あ無いぢやないか。そりや、伊佐子さんと赤井が二人きりでユツクリ出来るのは、あれが最後だつたかもわからないけど、俺だつて赤井と話すのは最後かも知れない。一分間でも一緒に居たいやね。それをお前は無理に追ひ出さうとするんだ。
美緒 ……だつて、……夫婦よ。……それで……。
五郎 そりや解つてるよ。だからさ――。
美緒 あなたには……わからない……私は……赤井さん達……ホントの二人つきりにして……ゆつくり……させたかつた……のよ。
五郎 だからさ、だから俺あ――(と言ひながら美緒の顔を見詰めてゐたが、急に何かを悟つてポカンと口を開ける)……。すると……すると、なにか? お前は――?
美緒 ……(パツと赤くなつて、両掌で顔を蔽ふ)
五郎 ……ふむ。……さうか、そんな事をお前……さうか。(美緒の言つてゐるのがセキ[#「セキ」に「ママ」の注記]ヂユアルな事であつた事を理解するや、急に、はじめドギマギするが、次第に、赤井達のためにそこ迄考へてゐた此の病人が可哀さうな様な、いぢらしい様な、不思議な様な気がして来、いつまでもいつまでも見守つてゐる)……さうか。
美緒 ……はづかしい……わ。(まだ顔を蔽うてゐる)
五郎 ……いや、いゝんだ。はづかしい事なんか無いよ。その調子だよ、その調子だ。それでいゝんだ。な! (美緒の頭を静かに抱いて、その顔を蔽うてゐる掌の甲の上から接吻する)……な! 美緒、お前は良い女だ。……なるほど、赤井達は、あれつきりで、会へないかもわからんのだ。……美緒、お前は本当に良い女だ。
美緒 ……いや……だわ。……あつちい……行つて。
五郎 アツハハハ、ハハハ、はづかしがらなくつていゝよ。ハハ、そいで、赤井達はお前がそんな事まで考へてゐたと言ふ事は未だに気が附かずにゐるだらう。すばらしいぢやないか。いゝんだよ。セ
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