てゐるので、ノンキな事を喋りながらも、しんは気を使つてゐる。
吸入器のシユーシユーと言ふ響。
[#ここで字下げ終わり]
小母 ……(ニコニコして)わてには、子供はあらしまへんやろ。そらあ自分の子供が育つたらえゝなあと思ふ事もおます。……でもな、そんなに寂しいと思たりはしまへんのどす。なんでかと言ふとな、よそさんのお内で赤さんが生れますやろ? あれは、みーんな、亡くならはつたお人の生れ代りやからどす。……こん事わてが言ふと、旧弊や言うて、みんな笑はるけどな。……
美緒 ……(クスクス笑つてゐる)
小母 ハハハハ、たんとお笑いやす! 笑はれてもかめしめへん!……生れて来る赤さんは、前に生きてゐた人の生れ代りどす!……それはな、わてのお母はんがチヤーンと教へはつたから間違ひおまへん。……そら、わてにだつて、お母はんは居やはりましたのどすわ。変でつか?……そらもう、なんしろ古い話やけどなハハハハ。……とにかく、お母はんは、わての為にならん事を、教へはる筈ありまへん! 言やはりました。赤さんはわてらの生れ代りどす!……そんで、わては、自分の子供が無うてもチツトも寂しい事あらへんのどす。よそさんのお内でドンドンドンドン赤さんが生れはると、わてらの命も、ドンドンドンドン伸びるのどす。……わてらは、いつなんどき成仏してもえゝのどす。……赤井の兵隊さんに赤さんが生れはる! わては、うれしうてなりまへん!
美緒 ……(いたづらさうな顔で、手真似で、小母さんとそれから自分を指して、それは小母さんの生れ代りか自分の生れ代りかと訊く)
小母 そら、誰の生れ代りか、わてらには解りまへん。生きてゐる内に、えゝ事したもんは、ミーンな生れ代ります。……今、戦地へ行かはつて、討ち死になさつてゐる兵隊さんがギヨーサン居やはりますがな、それもみーんな生れ代らはります。お国の為に御苦労なさつて戦死なさるのどす、キツト、どこぞで一等かわゆらしい赤さんが生れはりますがな! (言ひ方は少し滑稽味を帯びてゐるが、彼女は自分の言つてゐる事を文字通り確信してゐるのである)
美緒 ……(何度もうなづく)
小母 さうどす! わては学《がく》がないよつて、理窟はわかりまへん。でも、いくら笑はゝつても、さうどす! わては、仏様や神様がほんまに、居やはるか、居やはらんもんか、わかりまへん。信心なんど、した事おまへん。……ん
前へ
次へ
全97ページ中78ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング