しむだらうと思ふんだよ。……うゝん、籍は半年前に入れたから、その点はいゝんだ。だが親父が病身だからね、もし死にでもすると、その後始末、つまり遺産……と言つても大して無いらしいが、そんなこんなでゴタゴタするだらうと思ふんだ。兄弟は多いし、母は気むづかしいし、とても複雑なんだからな。
五郎 よろしい、俺が責任を以て引受けた。大丈夫だ。
赤井 ありがたう。……これでもう心配な事は一つも無いよ。もう一つ飲むかな。今日はどう言ふんだかビールが馬鹿にうまい。
五郎 よし……(と注ぐ)そいで、なにかい、伊佐子さんの生活費やなんかは?
赤井 うん、それは社の方から僕の留守中、月給全額支給して呉れることになつてゐるんだ。
五郎 そいつは、ありがたい。そんな点、君の雑誌は気持がいゝな。もつともそれが当然なんだけど。
美緒 ……伊佐子さん、おそうござんすねえ。もうあと一時間半位しか無いのに。
赤井 もしかすると今日も家を出られないかも知れませんよ。なんしろむづかしい家で……
美緒 でも、いくらなんでも、こんな際に……。
赤井 いゝですよ。話すだけの事はスツカリ話しちまつてあります。それよりも僕あ久我ともつと話したいんですよ。でも、どう言ふのかなあ、あんまり話す事なんか無いなあ。
五郎 俺あ、なんかまだ大事な事を話してないやうな気がするんだが、それがどんな事だか思ひ出せないんだ。かんじんの事が出て来ない。頭がしびれた様になつちやつた。睡眠不足のせゐかな、チエツ!
赤井 ビールのせゐだよ、僕あもうフラフラだ。
赤井 美緒さん、あなたの託児所の方は、その後どうなつてゐるんです?
美緒 えゝ、畑さんやなんかが続けてくれてゐるんですの。その後あそこも――。
五郎 お前黙つてろ、俺が話す。その後あすこも経営難で一時は閉鎖しちやつたりした事があるがね、あれつきりになつたら、美緒なんか、こんな病気にまでなる位に骨を折つて創立した所だしね、あきらめがつかないんで、とてもヤキモキしてゐたんだ。第一、あの近所の貧乏なお神さん達がトタンに困るんで、色々気をもんでゐたら、やつと、あの地域の家庭購買組合の方で引受けてくれたんだ。そいでやつと命がつながつてズーツと続いてゐるが、面白いもんぢやないか、美緒たちの育てた子供達がいつの間にか大きくなつて、こないだも四五人でお見舞ひに来てくれた。それぞれ女工さんになつたり職工
前へ 次へ
全97ページ中54ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング