欣二 (父から突飛ばされた拍子に、椅子にドシンと掛けたまま、ポカンとしていたがやがて手斧に眼をやってニヤニヤ笑い出している)……フー。
柴田 ……(まだ自分のしたことがよくは理解出来ないらしく、ボンヤリ立っていたが、急にフラリと身体がゆれたかと思うとストンと前のめりに倒れる。失神したらしい)
双葉 ……(その父の様子に口の中でアッと言って左手をあげて空を掴むが、驚愕と恐怖のためにまだ動けないでいる。その美しい顔の左半面が鋭く凝結したように青白い)
欣二 ……(ニヤニヤしていた顔が、そのままでひきつったようになり、そしてふざけるような手つきで片手が頬を掻くような事をする。又ニヤリとする。両手が顔を蔽う。しばらくそうしている中にグーと言うような声を出す。しばらくしてから又同じような声……低い、地の底からのような慟哭が湧きあがって来て、次第にそのあたりをゆるがすように強くなる)
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(上手の隅の壁の前では一同から忘れられて突立っている若い男が、此方を向いて、ていねいに何度もお辞儀をしている)
[#ここで字下げ終わり]
[#地から1字上げ]―― 幕 ――
底本:「三好十郎の仕事 第三巻」學藝書林
1968(昭和43)年9月30日第1刷発行
初出:「世界評論」
1947(昭和22)年5月号
※編集委員による、「〔〕」におさめられた注は、入力しませんでした。
入力:伊藤時也
校正:伊藤時也・及川 雅
2009年1月5日作成
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