なんて大きな口を叩くのは、猿の尻笑いだね。
誠 そりゃ俺達は力が弱くって、そのために、国民全般に俺達の考えを充分に植えつけ戦争に反対させる事が出来なかった。それほど俺達の力は弱かった。しかし弱いために押しふせられて公然と戦争に反対出来なかった事と、積極的に戦争に協力した事とは、違うよ。
欣二 違うで、いいさ。しかし、違っていたからって、そいで、俺達の、こんな風になり果てた状態がどうなっていたんだ? どうなるんだ? 同じじゃないか。ハハ、そのうちに又、世間の調子が変って来るとする。するとまた兄さん達は引っこんじもうよ。俺が太鼓判を押さあ。そして、後になって、俺達の力は弱かったから、うんぬん。
誠 それまでに、いや、そんな事の無いように、だから、俺達は大急ぎで世の中を作りかえなくちゃならんのだ。労働者農民の手で上から下まで固めた社会を作り出さなくちゃならんのだ。そうすりゃ、侵略戦争をする必要は無くなる。又侵略戦争を無くしてしもうには、そうする以外にない。
欣二 そら出て来た、侵略戦争を必要とするのは資本家である。結構だ。ところで、資本家が無くなる事があるかね?
誠 無くなって行くよ。必然的にそうだ。これから進歩的な人間が、そいつらを無くなして行く。
欣二 個人は無くなっても、蓄積された富そのものは無くならん。つまり資本は無くならん。
誠 人民がそいつを管理する。だからもう人民を搾り取り頤で使う力ではなく、反対に人間の生活を豊かに幸福にするための力になる。
欣二 ところで、いつになったらだい。そんな時が、いつ来るかね?
誠 今に来るよ。俺達の持って行きよう次第で早くもなりおそくもなるが、必らず来る。
欣二 ブラボー! ありがたいね、そいつは。ところで今此処にいる俺達をどうしてくれるんだ? いいかい兄さん! 頼むからこの俺を、ようく見てくんないか。さあさ、お代はいらねえから、よく見ておくれよ。なにさ、もう三十分すれば、飛び出して十中の十、必ずと言う所まで行ったんだ。そして結局自分をまるきり棒に振ったんだ、なんて事ぁ大した事じゃないよ。今から思うと、こっけいさ。お笑い草だね。そんな事ぁ、どうでもいいさ。見なよ、俺達のなくしたもなあ、命なんかより、もっと大きなものなんだ。……人を信用する気をなくしちゃったんです。わかるかい! 兄さんにゃ、わかりゃしねえだろう? こいつ、チョット、オツリキな、へんてこな加減のもんだぜ。そいつは、てめえがダラシがねえからと来るだろうが、そりゃまあダラシがないにゃ違いないからね、さよでございますかと言うだけで、そんで、しょうがねえもんなあ、ハハハ! ことわっておくが、オアズケはごめんだぜ。オアズケを見せびらかされたって、腹がクチくなるか?
柴田 (それを押しとどめて)もう、黙んなさい欣二! もういいから!
三平 ハッハハ、腹がくちくなるか、はよかった。全くだよ。そんな高級らしい事をガアガア言いたくなるのが、実はただ腹がへっているという原因から来ている。胃の腑のかげんです。栄養失調の結果の精神失調ですな。そんなもんさ人間なんて。はだかになってしまえば、とどのつまりが、食い気と色気。餓鬼です、要するに。こめんどうな理屈を言い合ったって、どうなるものかね。家庭の平和がみだれるだけ。ここの内じゃ、二人三人寄るとたちまち議論だ。久しいものさ。いいかげんに、よそう。とにかく今日はよしなさい。そんな事よりも、問題はこのすきっぱらさ。おせいさん、なんか、もう少し食べるもの無いかね?
せい ええ、でも、――
双葉 私は、だけど、ちい兄さん、いけないと思う。そりゃ私なぞ、誠兄さんの言うこと、よくわからない。よくわからないけど、こうして、つらい思いをして、働いて食べて行ってる貧乏な人達のために都合の良い世の中が来なくちゃいけない、来させるようにしようと言う考えの、どこがいけないの、え、ちい兄さん? 兄さんはただイコジになっているだけだわ。そうじゃありませんか。腹の奥の奥の奥では、ちい兄さんだって、それを望んでいるんだと私思うわ。そうじゃなくって? 私は――私、今とてもつらい、つらいけど、そいでも、まだこれで以前の時代より、良くなったと思うの。本質的によ。本質的に良くなる望みが出て来たと思うの。本質的に良くなった、良くなる望みが出来て来たという事を認めたら、その事から今差し当り起きて来ているいろんなつらい事位がまんして、こらえて行かなくちゃならないわ。そして、そんな事を自分の手で順々になおして行かなくちゃならないのよ。
欣二 双葉、そいじゃ、お前のその顔のキズをなおして見ろ。ヘッ、お前のツラなんか此方から見るとバケモノだぜ、いえさ、もう少し経ってお前に恋人でも出来てからだな、今言ってるような事が言えるか?
双葉 (カッと見ひらいた両眼
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