ワあ、みごとなおジャガですわねえ? お宅でとれたの?……(せい子返事が出来ないでいる)よござんすわねえ、ずいぶんたくさん有るじゃありませんかあ!(包をほどいてしもう)まあ、こんな大きい。(ゴロゴロゴロところがり出して床へ落ちた芋の二つ三つを拾い取って)へえ!(チョットそれを見ていてから)……ねえ、これを少し分けていただけないでしょうかねえ?
せい でも――(清水を見る。清水はへんな顔をしてお光を見ている)
お光 いいでしょう? そうすりゃ、とにかく、帰って行っても、私、お父つぁんに叱られないで済むんですからさ。
せい それは、しかし先生に――
柴田 (同時に床穴から首をもたげて、泥だらけの小さいシャベルをせい子の方へ出す)おい来た。
せい はい。――(受取るが、眼は直ぐお光の方へ)
柴田 なんだ?
せい そのねえ、おジャガを分けてくれって、お光さんが――
柴田 そう。そりゃ……そうさな、そりゃまあ、いいだろうが――そりゃ清水君達が――(清水の方を見る)
清水 それは、先生んとこの物です。
柴田 うむ、そりゃ、あんたんとこも困っているんだから――
お光 はい、ありがとうございます。
柴田 (礼を言われてしまって困って)いや、その――おせいさん、ひとつ、あんた、いいようにその――私あ、もうチョット、この下を、なにして――(床下に引っこむ)
お光 ……(黙って立っているせい子の顔を、光る眼でジッと見つめる)
せい ……(しばらく黙っていてから、ヒステリックに)いえ、私あ知りません! 私あ知りませんよ。私あ、此処のかかりうどに過ぎないんですから、そんな事知らないんですよ!(シャベルを持って小走りに扉から消える)
お光 ……(その後姿を見送ってから、チョットの間ジッとしていたが、清水の方をチラリと見てニヤリとして、次ぎに獣のようなすばやさで膝の上に置いていた買物袋の中へジャガイモをさらいこみはじめる)
清水 ……(それを見て口の中でアッと叫び、なにか言葉をかけそうにするが言えない。――その間もお光はサッサとジャガイモを袋に詰めている。――その時、床下で、土を叩く鈍い音がドシン、ドシンと間を置いてする。清水その方を見る。――やがて、その眼をお光に移して、苦しそうな低い声で)――君、おい君――
お光 ……(ジロリと清水を見るだけでイモをさらい込む手は休めない)
清水 それを、君あ
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