たことを、きまりの悪いことに思っている。笑うがよい。しかし僕の心にも無い事は言わなかった。きまりの悪さを押し切って言わなければ言えないものだから、言ったまでだ。
 世の演劇人の大概は、口癖のように、演劇の仕事では「良心」と「食うこと」は両立しないものの様に語る。それは嘘だ。自己の良心の浅薄を蔽い、非良心的な仕事をするための口実とするための嘘である。「食うこと」の困難にも堪え切れぬような良心は良心の名に値いしない。良心を押し立てることに役立たぬ食うことは、食うに値いしないのだ。
 真の良心――即ち国家と演劇芸術の本質に対する忠誠――そのための良き事と悪しき事を弁別するばかりで無く、その良き事のために強く執拗に永続的に挺身しようと言う意志をも含めた忠誠――と「食うこと」は、絶対に両立する! させなければならん! 両立と言うよりは、これが一本になる事だ! 一本にしなければならぬ!
 今こそ、われわれは、それの可能を絶対に信じなけれはならない。それを確信することのみが、それを確信し得るように自己を錬成する事のみが、われわれの演劇――われわれの文化――わが国――の最後の勝利をわれわれに確信させる。なぜならば、国内に於ける良心の真の勝利は、国外に於ける、即ち英米の悪に対する我が国の真の良心の勝利のための第一の基礎だからである。
[#地から1字上げ](以上)



底本:「三好十郎の仕事 第二巻」學藝書林
   1968(昭和43)年8月10日第1刷発行
初出:「演劇」
   1943(昭和18)年4月号
※〔 〕内は、底本編集委員による加筆です。
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:伊藤時也
校正:及川 雅・伊藤時也
2009年6月6日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全17ページ中17ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング