博多節というのマキちゃん、聞いたことあるかい?
マキ 無い。小父さんがよく唄う、あの変な歌じゃないだろ?
肥前 フフ、もっと良い歌だ。……そんで、その材木屋で働きながら、中学へあげてもらったりしたがな……その叔母さんがポックリ死んで、間もなく、店がつぶれた。そいから俺あ、あちこちして、門司へ出て働いていたが、身をたてるなら東京だと思って十八の時に東京に来たんだ。……そいでいろいろやった。が、うまく行かねえ。世間のせいじゃねえ。ウヌの片意地な性分のためだ。何をはじめても、直ぐに喧嘩だ。そりゃ、いつでも間ちがったことするのは上の奴で、正しいのは自分だ――そういう気がある。そういう、言わば正義病というかな、そうしちゃなんでも途中でおっぽり出す。……そいでウロウロしているうちに戦争だ。乙種だったんで召集を受けてね。いやいや戦争したんじゃねえ、つまらねえ二年の上も、馬の世話かなんかやらされてさ、いや、馬あ可愛いくて、よかった。人間がダメでな、上官――つまり下士官なんて奴らが、むやみと人の事けったりなぐったりしゃあがってね。……そいで戦争すんで戻って来たら、世の中あ、このありさま、正直者がバカを見
前へ 次へ
全40ページ中35ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング