だよ?
肥前 コッペパンだ。(紙の音をさせて、ふところからパンを二つ出して、その一つをマキに渡す)俺が食いなと云ってもイヤかよ?
マキ 小父さんが食えと言やあ食うよ! なんだい!(と腹を立てている)
肥前 フフ……じゃ食えよ。
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……波打ぎわに自然に腰をおろした二人がパンをかじりはじめる。ポンポン蒸気が大川を斜めに横切って来る音。それの立てる波がザザザジャブンジャブンと寄せる音。
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肥前 (パンをかみながら)……うむ、そりゃ七つや八つの子が、いきなり空襲で二親から兄弟一人残らず取られっちまやあ、そういう気にならねえとは限らねえとも言えら――
マキ ううん、ちがうよ。そんな事のためじゃ無いよ。だってあたい、あの時分は、お父っあんやお母さんや、みいんな一度にいなくなっても、それほど悲しくはなかったもん。そんな事より、買ったばかりの学校の本がカバンごと焼けちゃって、そのまんまの恰好したままキレーに灰になったのを見た時の方が、よっぽど悲しかったな。
肥前 だけどさ、空襲で家族をゴッソリ持ってかれたのは、なにもお前一人たあ限らねえ。それがお前だけ
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