字下げ]
約束したが
月は山陰、主あどこに
やれ、チートコ、パートコ」

二、三人さきに、ペタンコになって寝ているマキと言う十六七の戦災孤児の女の子が、ムックリ顔を向けて、
[#ここで字下げ終わり]

マキ やかましいなあ、肥前の小父さん、歌というとそれしきや知らないの? まるでお経読んでるみたいだ。よしなよ!
肥前 なあに、この、マキベえの、くたばりぞこねえめ! お前、からだの具合が悪いんだったら、黙って寝ろい!
マキ おおきなお世話だよ! くたばりそこねえであろうとなかろうと、おいら、景気の悪いのはごめんだよ。てつ! おいらが死ぬ時あ、上州の小父さんに頼んで、八木節でも唄ってもらうつもりでいるんだ!
岩見 (すぐわきのフトンの中からモグモグ顔を出して、ゴホンゴホンと咳をして[#「咳をして」は底本では「呟をして」]、マキの毒舌に笑いながら)フフ、フフ、いやあ、マキちゃんよ、お前は若えからそんなふうに言うがな、肥前さんのその歌なんてもなあ、よくよくわけのある歌だ。どこの何という歌だか知んねえが、俺あそいつを聞くたんびに、シミジミ泣けてくるぞ。なあ! 破れわらじとおいらが仲は、か……なん
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