いうわけじゃ無えけんど、仲蔵がおのしにどんな事云うたちうてん、そんつもりで附き合わんきゃいかんというこったい。
お花 そんつもりたあ、どんなつもり? 仲さんば、あたしが好いちゃ、悪いっかい?
健二 悪いちゃ云えんけどよ……
お花 好きな人ば、嫌うわけにゃ行かん。
健二 ……うむ、そりゃ、行かん。けんどさ、俺の云うのは……
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ガサガサガサと下生えの音をさせて、二人の足音が沢に出て行く。
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お花 あーい……六平の小父さあん!
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六平爺がユックリと掛小屋から顔をのぞけて、
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六平 おーい、お花坊と健二かよう!
健二 お茶をもらいに来たぞう。
六平 ちょうどよかった。俺もソロソロめしにしょうと思っちょったところて。さ、はいんない。
健二 (小屋に入りながら)わあ、えれえ見事なモミジたい!
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ピタピタと大木の肌を叩く。
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六平 フフ、この引き方で、ジョリンモクが出るとたい。佐賀からの注文でな、これば床板にするちう、町にゃゼイタクな仁のござるげな、はは、もっとも、それんおかげで俺みてえな木びきが食って行けよるとじゃけん。
健二 なんと、大ノコ一丁でこんだけの歪みしゃくった木が糸でも打ったこと、ピシリと引けるとかなあ……
六平 なあに、もう六十をすぎちゃ、気ばかり立っても腕はナエた。おのしたちの親父が生きてシャンシャン引いてた時分の板ば見せたかったのう!
お花 死んだお父っあんな、そんな、そんな腕のいい木びきだったの?
六平 うむ、健五郎は、この日田にも三人とは無え名人だった。俺なんざ、今でも、むつかしい木取りの時あ、目の前に健五郎ば置いて、どげん引目ば入れりゃよかつかい健五郎ちうて、相談しいしいやっちょるとばい。健五郎は死んでしもうたけんど、幼な友達の俺が呼べば亡霊になって、すぐに来てくるるけんなあ。
お花 小父さんの話あ、じきに亡霊の話になるけんいやだ。
六平 しかたなかろ、この小屋にゃ年中、亡霊たちが遊びに来るんじゃけん。もっとも、俺もこう老いぼれちゃ、もうへえ、亡霊の一人じゃというてもよかようなもんだい、アッハ、ハ、ハハ――。
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健二もお花も声を合せて笑う。
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六平 さ、茶がへえった、飲みない。
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そこへ川下から、沢の浅瀬を渡って来る足音がチヤッ、チヤッ、と近づいて来て、
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仲蔵 あーい、六平の小父さんよーう!
健二 ああ、仲が来た!(そっちへ呼び返す)おーい、仲蔵かよう!
六平 ほうら、お花坊のお婿さんがやって来た。
お花 なに云よるとな、小父さん!
六平 んでも、そうじゃろがい?
お花 知らんっ!
六平 どうしたな? なにをそんな怒るか?
健二 小父さん、それは、もう云わんなおって――あの……
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云ってる間にも仲蔵の足音は近づいて、
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仲蔵 おやおや、健二もお花ちゃんもここにおったっか、はは、ちょうどよかった! 営林区の丸材の切り出しはどうしたかと思うちね――
健二 しめて十八本、下の落しの方が四十四、五本たい。
仲蔵 よかよか。そうか、んじゃ今日の俺の役目はこれですんだようなもんたい。
六平 あい、茶ば飲みない。はは、さあっきから、お花坊がおのしをお待ちかねたい。
お花 ばか小父さん!
仲蔵 はは、いや、実あな、お花ちゃんに今度はどんなおみやげ買うち来てやろかと思うてね。
お花 おみやげなんて、あたしゃ、いらん!
仲蔵 へえ? この前はリボンとクシ買うて来てくれと言うたろうが? どうして急にいらんか?
お花 いらんけん、いらん!
仲蔵 アッハハ、なんかまた怒っちょるな? なあに、いらんちうたとて、お花ちゃんの欲しい物ぐらい俺あ知っちょるさ。リボンにクシに、反物ば買うて来てやろたい!
健二 んだが仲よ、そんなこつに金ばっかり使うて、又帰って来て丸市の親方からカス喰うのはやめにしろよ!
六平 そうだそうだ! 筑後川すじから佐賀へんにかけちゃ、舟幽霊じゃとか、人のシリコ玉あ抜く川太郎じゃとか、おしろいくさいバケモンがウンと居るけんなあ。まあまあ、おみやげよりゃ、その用心する方がよかろうたい。アッハハ!
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他の三人も笑う。
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お花 小父さん、木びき歌、唄うち聞かせちくれない!
六平 又はじまった。俺のヘタクソな歌ばっかり聞いてどうするか?
お花 ううん、あんやんが、あたしの歌がつまらんと言うき、上手になりてえき。ねえ唄うちくれない!
六平 そうか、そんじゃま! ……どうもしかし、ノコ使わんと
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