およね そんじゃ、五郎しゃん。どうぞ、お願いしまっす!(三味線を取って騒ぎ歌のような調子を、二つ三つ鳴らす)こんなだったかいな?
五郎 イヤだ僕あ!
およね なしてな? なあ、お願い!
五郎 さっきの博多節の方が、よか……
およね そんじゃ、あたしが博多節ば、五郎しゃんと仲さんに教ゆっけん、木びき歌ば教えてな!
五郎 うん、そんなら。
およね そんじゃ、博多節ば、もう一つ唄いますけんね、その後で木びき歌ば唄うてなあ。
五郎 うん……
およね (三味線を弾く)
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「博多帯しめ
筑前しぼり
筑前博多の帯を締め
歩む姿が
ありゃどっこいしょ、柳腰
お月さんがチョイトでて
松の蔭、はい今晩は」
今晩は、と終るか終らないのに、五郎が少年の声をはりあげて、軍歌でも歌うような勢いで、
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五郎 やーれ!
およね (あわてて)あらら!
仲蔵 アッハハ、ハハ!
五郎 ばってん、こうじゃろが!
およね そうですたな、そうですたな! つづけて、五郎しゃん、つづけて!
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ジャンジャカ、ジャンジャカと三味線をひく。
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五郎「山で切る木は、こら
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かずかずあれど
思い切る気は
さらに、ない
やれ、チートコ、パートコ」
味もそっ気もない、ただ器量一杯の声で唄う。つづいて、それを真似て、しかしたちまち芸者が座敷で唄う唄い方で、
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およね 「やーれ、
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山で切る木は、こら
数々あれど
思い切る気は
さらにない
やれ、チートコ、パートコ」
こうな、五郎しゃん?
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五郎 ちがう! そぎゃん早う唄うちゃ駄目たい!
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「やーれ!(仲蔵がクスクス笑っている)
破れわらじと、こら
おいらが仲は
すぐに切れそで
切れやせぬ。
やれ、チートコ、パートコ」
それを追っかけて鳴るおよねの三味線のひびき……
M……
このあたりまでの歌や音楽の調子は、最初は単音のそれが次第にポリフォニイになり、それが暗くなったり明るくなったりするが、いずれにしても古い日本の民謡をそのままに受け容れた、したがって基本的に単純な懐古的な調子である。今から二十年前の北九州の空気を跡づけるような色彩。
それが、このあたりから急激に、音
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