テレくささ、それに何だか譯もわからない、いや、わかつたとしても、どうせ大した譯でも無さそうな事で、こんな大げさな眞似をする小娘のうるささ、それをしかし勝手にしろと打ち捨てて立ち去つてしまうわけにも行かない――私はすこし腹が立つて來ていた。ルリは一言も言わない。ありがたい事に、間も無く電車はS驛に停つた。ルリはサッサと降りながら、青い顏のままチラリと私を見たが、足は停めず、胸を張つてスッスッとプラットフォームを行く。別に逃げ出そうという氣配も無い。やれやれと思いながら並んで歩いた。
「三好さん、そいじや、僕、ここで失敬します」
 うしろで聲がするので振返ると佐々兼武だ。實は、彼のことを私は胴忘れしていた。
「そう、そいじやまあ――」
「近いうちに、お伺いするかも知れません」と佐々は不遠慮な眼つきでルリの方を見ながら、「いずれ貴島と連絡がつきましたら」
「え、貴島さん?」ルリが立停つて佐々を正面から見すえた。「………貴島さん、どこに居るんですの?」
「いやあ……」佐々は、ルリと私を見くらべながらニヤニヤしている。
 私は、かんたんに二人を紹介した。佐々はルリに對して強い興味を持ちはじめたら
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