對して佐々が、
「そうだよ、よせばいい」とアッサリ相槌を打つたのは、意外だつた。
「どうして貴島は黒田なんて男の所で、あんな事してるんだろう? ゼニが欲しいからかね?」
「ゼニもゼニだろうが、それよりも、なんか彼奴はムシャクシャしてたまらんのじやないかね。實際、あいつはオキナワで死んでいりやよかつたんだ。死んでた方がラクだつたよ。彼奴を見ているとそんな氣がする。全くシンから氣の毒になるよ!」佐々の聲が、うめくようにシミジミとしていた。しかし、たちまち又、刺すような語調になつて「いや、ホントは彼奴はオキナワで死んでいるんだ! カラダだけが死にきれないで、いまだにウロウロしている」
「そいじや、アベコベじやないか?」
「そうさ。近頃じや、すべてアベコベだ。カラダが死にきれないんだ。だから幽靈さ」
「フ、貴島が幽靈で、俺が豚か」
「そうだよ、お前は豚だよ。そいつはハッキリしていらあ」
「そいでお前は共産黨か?」
「そうだよ、とにかく、人間だ」

 それから、二人の長々とした議論がはじまつた。それは久保がその職場での爭議に對して冷淡すぎる事を佐々が鋭くとがめることから始まつて、話は次第にもつと
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