バカな事じや無えよ。腹がへつちや、イクサはできねえもん」
 久保は皮肉やシャレを言う氣など全く無しに言つている。佐々はサジを投げるように舌打ちをして
「そいで、なんで三好なんて人を連れて來たりしたんだ?」
「貴島がいつしよに連れて歸つてくれと言つたから――」
「なんか用があるのかい?」
「知らん、俺あ」
 それから、二人はしばらく默つていたが、佐々の聲が、私が眠つているかどうかを試すように低い聲で此方へ向つて、
「三好さん…………」と呼びかけた。私はだまつていた。トッサに返事が出なかつたせいもあるが、眠つたふりをしていてやろうと言う氣になつていた。佐々はもう一度私の名を呼んだ。今度も私は返事をしなかつた。それで佐々も久保も私がグッスリ眠つているものと思いこんだようである。
「知つているのか君あ、この人を?」久保の聲が言つた。
「名前は知つている。書いたものも讀んだことがある。つまらねえ文士だ」吐き捨てるように佐々が言つた。
 私は暗い中で苦笑した。
 そのくせ、翌朝になつて三人が起き出して顏を合せると、久保の紹介も待たずに佐々は私に話しかけて來たが、それは並々ならぬ敬意と親しみのこもつ
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