いるとは私にはどうしても思えない。すくなくともルリの行方を知らないと言うのは事實らしかつた。いろいろの角度から、何をたずねても彼はスラスラと答えたが――答えがスラスラとしていればいる程、かんじんの點は捉まえどころが無くなつて行つた。私は少しジレて來た。貴島は貴島で、私がルリの事に就て彼を疑つている點がわかるものだから困つた顏で「なんでしたら、荻窪の僕の住いの方へ來て見てくださいませんか」と言つた。そうすれば、自分がルリの失踪にかかわり合いの無い事がわかるだろうという意味を含めた言い方だつた。「ホントにお手傳いして搜してもいいですよ。それに、僕といつしよに暮している男で、そういう事のバカにうまい奴も居ますから」その話を差しあたり打ち切りたいらしかつた。そして、すぐに又Mの事――と言うよりもMの知人で現存の人々の方へ話を持つて行く。その話になると變に熱心で、こちらが話をかわしても、又してもそこへ戻つて問いかけて來る。兩方の話が喰い合わず、チグハグになつて行くばかりだ。
「だけどルリの事では、とにかく早いとこ家の人たちに報告してやらなきやならんからねえ」
「ですから、なんでしたら今夜にでも―
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