インクであつても、たいした違いは無いかのようであつた。一々こまかい反應を起せなくなつているのである。國友の「そのうち又逢おうね」という言葉が、なにか殘虐な復讐を意味していること、そして、この種の男がいつたん復讐を決心したが最後どんなことがあつてもそれは實行されるものであつて、それがどんなに無慈悲なものであるか、などを私はよく知つていた。そのために、貴島の身の上を心配する氣が起きたのでも無い。貴島や國友がどんな事になつたとしても、それが自分にとつて、なんだろう。全部がただいとわしい――言つてみれば、愚かしい三文芝居でも覗いているように白ちやけて見えたのである。ただ、事がらのわけがわからないのが、氣持が惡い。意味のわからない夢を見た後のように不快だつた。
だからその時、一方で「めんどうくさい、歸つてしまおう」という氣もしていながら、そうはしないでD商事のビルディングの方へ再び引き返して行つたのも、僅かばかりの冷たい好奇心のようなものと、とにかく綿貫ルリの事でわざわざ來たのだから、そして、今會つておかなければ又いつ貴島をとらえる事ができるかわからないと言つたような氣持――それも、それほど熱
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