の前にいる間だけは、カンタンな言葉で受け答えはしますが、僕が居なくなれば僕の事などは直ぐに忘れてしまうようで、小机の前にポカンとして何時間でも坐つているらしいのです。そして、時々フラッと外に出て、例の横穴の所へ行つて立つているんです。白痴の子供みたいに無心な樣子でした。別に暗い、陰慘な感じはありません。むしろ、明るすぎる。生活のことなど何も考えていないのです。僕が持つて行つてやる食べ物などをうまそうに靜かに食べて、落ちついているのです。Mさんの事を聞いても、戰爭中のことを聞いても、その時々で言うことが違つていて、トリトメがありません。
出征前夜のあの女が此のタミ子であつたかどうか、それをホントに確かめる手段は遂にありませんでした。あの晩のことを、いろんな言い方でタミ子に問いかけて見るのですが、ケロリとして手ごたえ無し。いろんな點から推して、どうもこれは唯の普通の淫賣らしいと言う氣がする。だのに、横穴の中で最初に見た瞬間に、どうして「これだ」と思つたのか――今となつては、あやしいものだつたような氣がします。それに、三度四度五度とタミ子の所に通つて來ているうちに、そんな事はどうでもよくな
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