です。それがお婆さんの心の眼に見えるために、變な不安が生れる餘地が無いのかも知れません。
とにかく僕は、その翌日から、割に落ちついて、久子さんに言い附けられるままに、いろんな百姓仕事をしました。はじめは、身體が痛くて、かなりつらかつたのですが、次第に馴れて來て、今ではたいがいの事は半人前ぐらいは、やれます。
僕は重農主義者でも無ければ、農民や農村を愛したりしている人間ではありません。ですから、百姓の生活や仕事を理想化したり美化して考えたりはしません。ただの仕事だと思つています。それをやるのだつて、別に惡い氣持でも無いが、特に良い氣持でもありません。ただ、働くという事は惡くないな――そんなふうに思つてやつています。
「貴島さん、あんた、金、ある?」と、或る時久子が聞くので「無い」と言いますと、
「金、かせぎたくない? かせぎたければ、どうだね、カツギ屋やつて見ないかね? 實はね、あたしんちでも、こうして、まあまあ食うだけは食つて行けるけど、現金はまるで無いからね。これから冬になつて、お婆さんや坊に着せるもの一つ買えない。そいで、豆だとか何かを、すこしカツイで行つて町で賣ろうと思うが、
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