ふだんの顏つきが、少しいかついだけに、ニッコリすると、まるで面《めん》を取りはらつたように、邪氣の無い顏になる。その顏でいつぺんに思い出したのだつた。十年ばかり前、或る事から懇意になり、一年間ばかり、かなり親しく附き合つていた國友大助だつた。もと、サーカスのアクロバットの藝人、その後、柔道家になり、拳鬪選手もやつたことがあると言つていたが、私と附き合つていた頃は、バクチを打つて歩いているようだつた。ひどく快活な近代的な博徒で、何かと言えばその笑顏で「いや、僕は忍術の修行をやつてる人間でしてね」と言つていた。なんでも、仲間のもめ事で、大がかりな殺傷事件をひき起し、それを最後にしてフッツリと姿をかくしてしまい、以來十年ばかり私はこの男を見なかつた。
7
「變つた。――スッカリ見ちがえて――それに、立派なやつが生えちまつた」私はヒゲの恰好をして見せた。
「ハハハ、どうも、いけません。こういうものをなにして歩くようになつたら、おしまいです。だけど三好の旦那も、お變りんなつた。第一、ひどくやせたじやないですか?」
「いや、病氣をしたり、それに」と私は盃を口へ持つて行く眞似をし
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