。いえね、伸一郎氏に、女給さんあがりの若いキレイな戀人が出來てね、それとほかで同棲してしまつたもんだから、稻子さんとは別れるんだとかでゴタゴタしてるそうだけど、どうなつたかしら。なんしろ稻子さん自身が理窟の上でも實生活の上でも、とても猛烈な自由戀愛主義だしね、伸一郎氏といつしよになる時だつて稻子さんと言う人は、その前の御亭主の、たしか物理學の教授だつた、その人を蹴とばして強引に伸一郎氏といつしよになつた位だから、今度伸一郎氏に新らしい戀人が出來ても、反對するわけには行かないんじやないかしら。痛い所だわね。もとの御亭主に呑ませた煮え湯を今度は御自分が呑む番になつたわけよ。自分が良いと思つてやつて來た主義を、人には、そうしちやいけないとは言えないんでしよう? 自繩自縛という所ね。でもあたしは女だから、稻子さんに同情するな。伸一郎氏のためには稻子さん、實に今迄至れりつくせり、かゆい所に手がとどくように良くしてやつて來たのよ。ひと頃など朝起きると、伸一郎氏の帶までむすんでやるのよ。經濟的にも稻子さんの收入の方が多いんだから、伸一郎氏がズーッとノンキに繪が描いておれたのも稻子さんのおかげよ。稻子
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