間ぐらいしか無く、奧行きだけ五六間もあります。どこかの石垣の奧の蛇の穴と言つた感じがしました。天井から一列に五つ六つの電燈がぶらさがつていて、その下に三十人近い男女優や踊り子たちが、半裸體になつたり扮裝のまま、居ぎたなく坐つたり寢そべつたりしているのです。奧の方へ行くには、人の身體をまたいで行かなくてはなりません。ムッと暖かく、タバコの煙がもうもうと立ちこめています。……その一番奧の壁に向いて坐り、タバコを横ぐわえにしたまま、小さい鏡に向つて化粧をしていたのが、それでした。僕を案内してくれた樂屋番の人が、
「この人ですがね……」彼女に向つて言い、僕を顧みてくれましたが、彼女は鏡の中から僕をジロリと見上げたまま、なんにも言いません。樂屋番が去つても、坐れとも言つてくれないので僕は立つたまま彼女を見ていました。横顏と鏡の中の顏、肩の形や身體つきなど、よく見ていると、かなり整つていて、カッコウだけなら美しいとさえ言えるのですが、眼の下や鼻の兩がわに不愉快なシワがあつて、それに眼つきが冷酷で、全體が實に醜いのです。第一、化粧途中のせいか、年が四十過ぎ、いや、ヘタをすると五十近いぐらいに見えます
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