十六七歳頃、非常に悲觀したことがあります。自分は何か普通の人とは違つた、そのうちに發狂でもする人間ではないだろうかと思つたのです。その後、何かの本で、天才的な性格の中に、おそろしく嗅覺の鋭敏な型があると言う事を讀んで、すこし安心もしましたが、しかし自分が天才だなどとは、まさか思えないので、やつぱり苦しみました。
 とにかく、そうなのです。それで、まだ黒田組に居て、あの女の人ともう一度逢つて見たいとボンヤリと思いはじめた頃から、今言つた通り、あの女の匂いを自分では憶えているような氣がするものですから――しかも、それがどんな匂いだかハッキリとは思い出せないものですから――そこらに居る若い女の匂いが馬鹿に氣になるようになつていました。道ですれちがつただけでも、何か氣になる匂いが感じられると、いけない、いけないと思いながら、その女の後をつけて行つて見たくなるのです。
 僕がお宅でルリさんとぶつつかつたのは、そういう癖が益々ひどくなつて來ていた頃です。ルリさんの匂いが僕の鼻に來ると、僕はボーッとなつてしまつたのです。もちろん、あの女の匂いだなどとは思いませんでした。明らかに違つています。しかしル
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