いや、そうであつても、僕はあの女の顏をハッキリおぼえていないのだ。いよいよ逢つて見ればもしかすると思い出せるかも知れないけれど、しかし、おぼつかない。すると、たしかにあの人であつたと言う事を、どうして判斷すればよいのだ?――そう思つて來ると、僕はなさけ無くなり、頭がポーッとしてしまうのです。泣きたくなります。あまりにあまりにミジメな自分にです。俺は何と言うなさけ無い、幽靈みたいな人間になつてしまつたのだろう? こんな、人を數人も斬つた事のある大の男が、こんなオカシな、夢のような、ミジメな搜し物をするというのは! 實際、泣きたくなるんですよ。
 えい、こんな事、よしてしまえ! とも思います。そしてひと思いに死んでしまおうかと思います。しかし、それが出來ません。かくべつ生きていたい慾望も理由も無いのに、ただなんとなく、死ぬこともできません。そうすると俺は、この先き、何をして行けばいいのだ? なんにも有りません。したい事は何一つ無いのです。みんなみんな、はじめからわかり切つているような、白つちやけて見えるだけです。愚劣なんです、すべてが。
 ただ、あの女にもう一度逢つて見ようと思うだけが、今
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