る。タイ風の中心に近づくにつれてまるで無風のポカーンとした所が有るそうですが、それに似たようなものかも知れない。まるで虚無的な時間でした。その中でヒョイと思い出しました。
思い出すと言つても、とりとめた事ではありません。第一、ハッキリした事は憶えていないんですから、童貞を捨てたというような感傷みたいなものも、すこしも感じません。感覺の上でも、その時の快感の後味みたいなものが微かに有るきりで、思い返してゾクゾクすると言つたような事は、まるでありません。すべてがアッけない夢を思い返しているようなものでした。第一、その時はオボロゲながら見たと思つた女の顏のリンカクなども、完全に忘れてしまつているのです。しかも、われながら味氣なく思つたのは、その女の事をハッキリ思い出せないために自分がすこしもイライラしたりしない事です。むしろ、そんな事よりもシミジミとなつかしく、逢いたいなあと思つたのはMさんのことでした。
しかし一度そうして思い出すと、その後は、時々思い出すようになりました。
だが間も無くオキナワに行き、陣地の構築やその他、完全な戰陣の生活――と言つても、ほとんど土方の生活と同じだつた
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