と、グッと拔いた。ベトリと血。懷中電燈の光の中で、それが黒――いや、濃い紫色に見えたのである。
「誰だよ、貴島をやつたのは?」
 久保が圓陣に向つて言いかけた。しばらく答えが無かつたが、やがて圓陣の一人が
「ふん!」と低く言つた。
 その方を、すかすようにして久保は立つていたが、フッとそれに向つて歩き出した。ナイフを逆手に持つている。急ぎはしなかつた。例のヒョコヒョコした歩きつきで、いつの間にはいていたのか、いつもの板裏ぞうりをペタペタ鳴らしながらである。電燈の光の逆光の中でズングリした姿がグラグラして大きく見えた。私はほとんど無感覺になつていて、ボンヤリ突つ立つたまま、それを見送つていたが、その時の久保の後姿を、私はいつまでも忘れないだろう。
「なんだ?……」と言う聲が圓陣の中からした。久保が自分たちの方へ近づいて來るのが、どんな意味だかわからないらしかつた。私にしてもそれがわかつていたとは言えない。直ぐに、その方で、ノコノコと一人の男のそばまで行つた久保が、右手をスッと横に拂うようにした。同時に、「アフン」と響く鼻聲が聞えた。グラグラと圓陣が搖れ動き、電燈の光がグルッと※[#「廴+
前へ 次へ
全388ページ中209ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング