一つ知らない。唯戰爭の爲に根こそぎ何もかも持つて行かれた人間で、あれの友達が幽靈だ幽靈だと言つていてね、自分でも死んじまつてた方がよかつたと言つている。何をするか知れたもんじやない」
「そうですか。………いや、このままで行けば、いずれ永い世間は無いかも知れませんねえ。今どき人の一人や二人、何のこたあないですからね。………いやな世の中になつたもんで、近頃そんな事をしても闇から闇へ消してしまう事なんか何でもなくなつて、外からは煙も見えません」
「いいだろう、そうなればそうなつたで」
 相手が私を脅迫にかかつているのではない事はわかつていた。が、彼の言う言葉の意味がドス黒くひびくのである。それに對して久しぶりにフテブテしい鬪志のようなものが私の胸の中に萠して來た事も事實だつた。
「だがねえ國友君、僕は思うんだ、君達のように生きている人間は、いずれにしろこの世の中でグレハマになつた人達だと思うが、それは僕にわかる。非難しようとは僕は思わない。だけど貴島のような人間も或る意味でグレハマになつた人間じやないかな? 道筋は違うがグレハマになつたという事では同じじやあないだろうか? その君達が貴島を目
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