在でも僕はイノチを惜しいとは思つてはいません。ましてその時は、そんなことは何でもありませんでした。それが、どうしてだか死ねませんでした。なんの理由もないのに、死ねなかつたのです。ただ、ハズミが無かつただけです。人間は生きるにせよ死ぬにせよ、その他のどんな事をするにも、その時のハズミだけらしいのです。
 僕が今こうして生きているのも、時のハズミで生きているだけです。その他にどんな理由もありはしません。そして、他の人間も、結局は僕と同じように生きているに過ぎないと思います。ただ生れて來たから、何かにぶつかつて死ぬまで、なんとなく生きているだけです。生きている事に、何かの意味を附けて見たり、する事の一つ一つを正しいとか間違つているとか、善いとか、惡いとか言つているのは、人間の弱さが生み出したヘリクツに過ぎません。虎は虎のように生きるでしようし、兎は兎のように生きるでしようし、ウジ蟲はウジ蟲のように生きるでしよう。
 一切がどうでもよい事です。ムキになつて考えなければならぬ事は、何一つない。人生は、生きるに値いしない。

 又、居所が變りました。
 今度は船の上です。船と言つても、汚いハシケの
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