しい。ルリの方は、貴島といつしよに暮している友人だと言われて、急に早口で言い出した。
「……貴島さん、どこに居るんです? 住居が荻窪だとだけで、荻窪のどこだかわからないし、しかたが無いので、驛の所で待つていれば、いつか必らず通る筈だと思つたので毎日驛の前の喫茶店から見張つていたんです。今日もそうなの。そこへ先生たちが來たんだわ。どこに居るんです。あの人は? 私はあの人に會わなければならないんです。いつしよに連れて行つて下さい!」
「……でも、貴島君は、今、家には居ないよ。實はそこから僕等は出て來たんだから。ねえ佐々君」
「ええ。……當分歸つて來ませんね」
「どこに居るんですの、だから?」
いつの間にか三人は驛の構外に出ていた。とにかく、そこらでお茶でもと言う事にして、私は二人をつれてSのゴミゴミした裏町の顏見知りのカフエへ行つた。
腰をおろしてからも、ルリは私の方など振り向きもしないで、佐々に詰め寄るようにして貴島のことを追求した。わがままな子供が物ねだりをするように、ただ、むやみとイチズで、左右のことを顧慮しない。さすがの佐々が受けかねてシドロモドロになつていた。
「ですから、僕もハッキリ知らないんですよ」
「ウソ! だつて、さつき貴島さんと連絡すると言つてたじや、ありませんの!」
チャンと聞いているのだ。
「いや、それは、連絡がとれたら、知らせると言つたんです」
「どつちせ、あなた御存じだわ。そうでしよう? どうして、それをかくそうとなさるの?」
「かくそうとなんかしていませんよ。横濱だつてことは知つているけど、僕も今のところ、それ以上の事は知らないんだ」
「横濱?」
「そうですよ。僕が知らんだけでなく、誰も知らんですよ。人に知られるとヤバイから、あちこち轉々として隱れているらしいから――」
「ヤバイ? ……じや、なんかしたんですの、惡いこと?」
「ううん、いや、そんなわけじや無いけど、その、仲間のチョットしたゴタゴタで、とにかく、當分出て來ない方がいいから――」
「一體、どんな仕事しているんですの?」
「知りません僕あ。……でも、あなたは、どうしてそんなに貴島に會いたがるんです?」
「あなたに關係の有ることじや無いわよ! それよりも、どうしてあなたは、あの人に私を會わせまいとなさるの?」
「ヘヘ、誰も會わせまいとなんかしていないじやありませんか? 第一、
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