い、あちこち樹立ちのある所をグルリ※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]ると、土地がいつたんグッとさがつて、その片側が、急な傾斜の、まあ小さな崖になつている――その崖に、正面からは下生えやカン木が邪魔してよく見えないが、そばへ行くと、小さい入口が二つ並んでいる。その一つに、古賀さんが身をこごめて入りこんだのには、ビックリした。しかた無く自分も入つて行くと、戰爭中の仕事だろう、内部は割に廣い横穴。と言つても、もともと大急ぎで一時しのぎに掘られたもので、その後くづれ、こわれて、高さ五尺たらず、横はばは四尺ぐらい、奧行も二間そこそこ。暗い。と言つても、奧が淺いので眼が馴れると、奧まで一眼で見えるし、地面にはワラやボロボロになつたムシロなど、ちらかつて、紙クズやあきカンなど捨ててあり、陰慘な感じはあまり無く、どこかのゴミ捨ての穴と言つたところ。
 そこに、和服を着た小柄な女がションボリ、向う向きに立つていたのが、僕等二人が入つて來たのに氣づき、フラリと此方へ振り向く。
 その顏を見ると、僕はウッと息をのんだ。いや、その女の顏が異樣であつたとか言うためでは無い。永く風呂に入らぬらしく、よごれて生ま白い皮膚の、むしろ平凡すぎるような中高かの顏。髮も普通の洋髮にまとめている。もちろん、僕には見おぼえは無かつた。……それでいて「ああ、この人だ」と思つたのだ。どう言うわけだろう? 古賀さんの話や、Mさんの書き物から受けた暗示が僕に作用したのか? それとも、匂い?……いやいや、匂いと言えば、その穴の中のゴミ捨て場のような臭いだけで、それ以外には無い。わきに立つている古賀さんからは、中年女のヒナタくさいみたいな匂いと、徴かなクレゾールの匂いがするだけ。だから匂いのためなんかでは無い。だのに、なぜその瞬間に、あんな強い確信みたいなものが僕の中に生れたのか? わからぬ。そして今となつては、その確信もあやしくなつて來ている。
「またこんな所に來てんのね?……どう言うの? さ、歸ろう歸ろう」
 言われて、その女は逆光のために眼をすこししわめて此方を見ていたが、直ぐに古賀さんを認め
「ああ、古賀先生……」と言つて、すこし恥かしそうにニッと笑つて、頭をさげた。その動作がグナリとして、身體全體がひどく軟かい――と言うより、骨が無いような感じ。あるいは、衰弱しているセイかとも思う。それ以外に別に異状
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