の村の名を言つて道筋をたずねると、一里とチョットだと言うし、そこを通るバスも有るには有るが、それが出るまで二時間近く待たなければならぬと言うので、ブラブラ歩いて行くことにしました。町を出はずれると、田や畑の中を行きます。土地は丘陵型の起伏に富み、水田もあるにはあるが、畑が多い。それもたいがいスロープになつている。その間を縫つて行く道も、たいがい、ゆるやかな登り坂か降り坂になつていて、水平な所を歩くことは、ほとんど無し。その丘陵型が次第に疊みこまれて行く先きは山脈に盛りあがつている。
歩きながら、自分が戰地から歸つて以來、今まで、こんなような農村に踏み入つた事が一度も無かつたことに氣づく。かくべつの感慨は起きなかつたが、でも山や森や田畑や、その間にポツポツと立つている農家などを見ると、急に眼がさめて、はじめて自然を見るような新らしい氣持がして、セイセイする。同時に、身體のどこかがポーッとかすんで來て、氣が遠くなるような感じもした。
教えてもらつた通りに歩いて行つたが、一里とチョットと言うのが、遠いのに驚く。實際は二里ぐらいはあるか。やつと、その部落に着き、方々で「山内久子」とたずねたが、なかなかわからぬ。部落はずれの、その家に近くなつて、四五人の農夫やおかみさんにたずねても、テキパキと答えてくれる人は無い。中には、「山内」と言つただけでフン! と言つて向うを向いてしまう者がある。子供だけが割にスラスラと答えてくれる。おそろしく人氣の惡い村だと思つた。……しかし、それは自分の思いちがいで、實は山内久子の一家が、多くの村の人たちから反感を持たれているためである事が、後になつてわかつた。
ようやく、その家が見つかつた時は、すでに夕ぐれに近く、戸外は夕陽の光でまだ明るいが、屋内は暗くなつている。家と言つたが、普通の農家の構えでは無く、物置にすこし手を入れたような狹い、ペチャンコの小屋で、おそろしくきたない。小屋の前に穀物を乾したりする庭場の空地が取つてあるので、百姓家だとわかる程度。表戸口は開け放してあるので、案内を乞うたが、誰も出て來ず、答えも無い。一家中で畑にでも出ていて留守かと思つたので待つ氣になつていると、屋内で人の氣配がして、幼兒の聲らしいものがした。すかして見たが暗くてよく見えない。その内に、モゾリと動き出した物があるので、よく見ると、一間きりの部屋の、火の
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