そう感ずるだけで、なぜに愚劣なのか、なぜに踏みつぶしたくなるのか、そのへんの解釋は僕の力では出來ない。――それで、僕は自分でもイヤになつた。そんな連中に會つて歩くことが、すつかりイヤになつた。第一、東京という所がイヤになつてしまつた。
 それで田舍に行つて見ようと言う氣になつたのです。幸い、リストの中に、地方に住んでいる人が二三人おります。その中に、山梨縣にいる久子と言う人があり、その住所書きは、あなたから作つていただいたリストには書いてありませんけど、立川景子さんから聞いて書きとめてあります。地圖でしらべて見ると、Nという驛から大して遠くも無さそうです。それで、すぐに、そこへ行つて見ました。これが先ず輕率だつたのです。
 行く前に、もう一度景子さんに會つて、もうすこし詳しい事を聞けばよかつたのでした。そうすれば、その山内久子が、もう既に結婚している人で、しかも戰爭中に夫と共に滿洲にわたつていて、したがつて、僕が出征した時分は、彼女は滿洲に居た。だから、僕の搜している女などではあり得ないと言うことが、わかつたわけです。もつとも、そんな事情は立川景子は知らないのかもわかりません。「山梨縣で百姓をしている久ちやん」などと言つていましたが、それがいつ頃の知識なのか、――或いは終戰後の現在のことかも知れないが、――ただ人づてに聞いた噂話だつたのか。いずれにしても、多少は何か聞けた筈なのに、景子に會わずに僕は出かけてしまつたのです。しかし、僕はこの自分の輕率さを今となつては、後悔していません。なぜと言うと、あの女で無いと言うことは、久子という人に會つて二つ三つ話をしたら直ぐにわかつた位で……つまり、あの女を搜すという目的から言えば全くムダな失敗を演じたわけなんですが、そんな事よりも、もつと大きな――どう言えばよいか、得るところが有つた……いや、こんな言い方では、うまく僕の氣持は言い現わせません。何か、とにかく、何かを見た。そうです、何かとしか言えない。なぜなら、それが何であるか、その中にどんな意味があるのか、僕にもまだわからないからです。とにかく、その結果――いや、結果と言うと變ですけれど、そういう事のために、僕は又現在こうして久子さんの家に居るわけなんです。
 それを、カンタンに書いて見ます。

        37[#「37」は縦中横]

 中央線のN驛で汽車を降りて、そ
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