町ばかり離れた燒跡の草の中に、芙佐子の着ていたピンク色のワンピースがズタズタに破られて、捨ててあるのを家内が見つけました。どうも、なにか、この暴行された……まあ、なんです、まさかとは思いますが、とにかく、捨てては置けないと思いまして、さつそく昨日、R劇團の方へ參つて見ましたが、ルリさんは昨日の午後――つまり一昨日ですね、頭が痛いから今夜は休ませてくれと言つて歸つたきり、ズット見えないから、こちらでも實は困つている。そう言うのです。實は今日もあちらへ※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]つてみましたが、やつぱり來ておりません。そんなわけで、とにかく、お宅へ伺えば何かわかりはしないかと思いまして、失禮ですがお伺いしたようなわけでございまして――」
 相手がジレジレするほど※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]りくどい言い方で言つている間に、私の目には一昨夜のルリの姿が現われて來、そのピンクのクレープデシンが、引き裂かれて、燒跡の草の上にダラリとひろがつている光景が見えて來た。
「そうですか。……それで、その書置きと言うのは?」
「はあ。それがどうも、意味がよくわかりませんので。……これです」
 ポケットから出したのは、ノートから引きちぎつたような紙で、それに、舞臺の人間がよく使うコンテ式のマユズミのなぐり書きで、
「姉上さま。あたしは、キジマという人からブジョクを受けました。もう知つた人に顏を見せられません。フクシュウをしないでは、もう生きてゆけません。あたしを、さがさないで下さい」と三行に書いてあつた。

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「ブジョクを受けました」
 その侮辱と言うのは、どういうことなのだろう? 「暴行」と取つていいのだろうか? だが、そうならば、なぜそう書かなかつたのだろう? 若い女の羞恥心のためか、又は、氣位いが高いために、自分が受けた淺ましい目を、むきつけに書けなかつたためか? しかし、いくら貴族出身の若い娘とは言つても、既に、猥雜な舞臺人の世界の中でもまれはじめて教カ月を經ており、しかも、もともと思つたことは不必要なまでにズケズケと言つてしまう性質の女が、そんな※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]りくどい表現をするだろうか? しかし――と私は、儀禮的な心配の表情を顏にこびりつかせたまま、しかつめらしく控えている小松敏喬を前に置いたまま考えた。
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