おい久保さん、おめえ、何處へ行くんだね?」後ろから男が呼びかけた。
「うん、驛前で食物を買つて來るんだよ。じきだあ」と久保は答えて、並んで歩き始めた私に向つて
「あれは、黒田の子分です」
「黒田の?……黒田というと、横濱のその、貴島君とこの社長なんだろう? それが今頃あんなところで何をしているんだね? 何か、張り番でもしているようだが?」
「社長だなんて? なあに、ゴロツキの親分だな」久保は澄まして私の質問を默殺した。
「僕はゴロツキは嫌いだ」
「どうしてあんな男が、あんな所に立つているの?」
「今の男はズーッと貴島の護衞についている男ですよ」
「護衞? すると……然し貴島君は横濱に居るんだろう?」
「……あんな奴等は卑怯な奴等で、クズですねえ」
 この男と會話をする事は不可能である。彼が他人の問いに答えるのは、答えたいと思つた時だけだ。自分の言いたい時に、言いたいだけをポツリと口に出して、土人の樣に落着いている。この前の時にそれを知つているので私は別に驚かなかつたが、今日はとくにひどいようだ。
「あんな奴等は、世の中に居ない方がよいです」
「佐々君は今居るんだろうか?」
「佐々は三四日歸つて來ません。僕の會社のストライキで、デモだなんて言つて騷いでて、なぐり合いが始まつてね、十人ばかり警察へ持つて行かれたんです。そん中に佐々もまじつて居たらしいや。俺も會社の二階から見ていたけど、夜で暗いもんで、ハッキリ見えなかつた」
「すると……君はなにかね、貴島君の事について、最近何か聞きはしないかね?」
 返事なし。
「……ルリという女が――そうだ、君はまだ知らなかつたかな? 防空服を着た若い女だが、二三日前に、そんな風な女が此處へたずねて來なかつたかね?」
「さあ、知りませんねえ」
「いや、その女の事でなくてもだね、最近何か變つた事が無かつただろうか?」
「僕は毎日會社の爭議の方へ行つてるから何も知らないんです。……ただこの間から、そうだなあ、十日位前からかな、夜になると變な奴が三人も四人も、僕等の防空壕を遠卷きにしてウロウロしていますがね、たいがい毎晩ですよ。顏はわかりませんけどね。貴島をねらつているようです。………いや、さつきの黒田の子分などとは違つた連中のようです」
 氣の無い調子でそう言つてから、しばらく默つて歩いたあと、ヒョイと又脈絡の無い事を言いはじめた。
「佐
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