ある子供の方へ渡してやる金ぢや無えのか?
香代 三吉は、新村の先方へ、もう呉れてやつてしまつたんだよ。畜生! 私みたいな、こんな、しようの無い母親が附いてゐたつて、子供に、それが何の足しになるんだ! 私あ、かう見えても、蔦屋の、お香代さんだよ! なんだつ!
留吉 さうか。……ぢや借りるぜ。ありがてえ! その代り信州へ帰つたら、直ぐに都合して送り返すよ。さうだな、利息は五分にしといてくれ。もつと出したいが――。
香代 こん畜生! (コツプを投げる。それの割れる音)利息だつて? な、な、何を生意気な! やるんだと言つたら!
より (はらはらして介抱する)お香代ちやん! そんなお前、無茶をして! 留さん、お前さんもホントに、留さん! お前さん、此処に来てから、あんなに香代ちやんに――仕事も世話になるし、あんなひどい脚気も香代ちやんに治して貰ふし、脚気を治して――(と焦るが、うまく言へない)
香代 なにをオタオタ言つてんだよ。人間の皮か! アハハハ、馬鹿野郎! 馬鹿野郎! (その狂態を留吉驚ろいて見てゐる)どうする、いつ帰る? 早く帰れよ、さあ帰れ! 帰れ! 帰つて、もう二度と再び来るなつ!

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